来世は猫になりたいって思うことありますよね。
私もあるとき、自分が本当は人型に生まれただけの猫だったんだと気が付きました。
親から行方をくらましたときの話なんですけど、その頃、眠剤が効かなくなっちゃってたんですよね。
実家にいた頃からろくに眠れたこともなかったですが、薬は効いてたから、大人になって悪化したのかなぁ。
ともかく、眠剤を飲んでも眠くならないし、眠れても2時間程度で目が覚めるし、かと思えば眠剤がなくても日中に睡魔に襲われたり、自分でもわけがわからなくなってました。
夜に寝て朝起きるなんて、当たり前のことじゃないですか。
薬なんかなくても、努力なんかしなくても、普通の人が普通にやってることです。
でも、それができない。
なんなら、薬に頼ってもできない。
生物として欠陥品というより、もはや自分が得体の知れない化け物に思えました。
自分で自分が気持ち悪い。
で、話は戻るんですけど、行方をくらますときに心配して家に泊めてくれた知人がいたんです(神かな?)。
その家には猫がいて、あまり動物に慣れてない私は猫見知りを発揮しつつ、効かないとわかってる眠剤を飲んで寝ました。
案の定、深夜2時に目が覚めました。
泊めてもらってなんですが、他人様の家って自由にできないですね。
自分一人なら起きて水飲むなり、YouTube観るなりして気を紛らせたり、いっそ部屋の電気を点けて眠れるまで起きていることもできますが、知人は隣で寝てるのでさすがに無理です。
とはいえ、このお宅の起床時間は朝6時。
あと4時間。暇すぎる。
どうしようかなと思っていると、猫が来ました。
私が起きているとわかって、匂いを嗅いできます。今日が初対面なのに至近距離です。
たしかこの家では、猫が口の匂いを嗅いで確認してくるので、猫が来たら口を開けてやってほしいとレクチャーされました。
こうかな? と口を開けると、すかさず猫が鼻を突っ込んできました。
えっ、近い。
動揺する私をよそに、猫は嗅ぐだけ嗅いで、すたすた去っていきました。
私は知人に遠慮し、どうやって無の4時間を耐えようかと思案しているのにこの差です。
猫には人間界のマナーや常識はおかまいなしなのか…。
というか、堂々と起きている。
私は眠剤を飲んでもまともに眠れず悩んでいるのに、猫はさっきから室内をてくてく歩き回って、たまに人間の腹の上を元気よく走り抜けていく。
人間が寝静まっているのに猫だけが起きていることについて、なぜ猫は人間と同じように夜眠れないのかと悩んでいるようにも見えない。
夜行性だから、と言われればそれまでだけど、それにしても自由すぎないか?
そこまで考えて気がつきました。
そうか! 私も夜行性だったんだ!
私も猫だったのか!
天啓とはこのことですね。
私は本来、猫だったにもかかわらず、うっかり人型に生まれたおかげで自分を人間だと勘違いしていたのです。
でも大丈夫。猫なら、夜眠れなくても何も問題ありません。だって猫だから。
なるほど、そうだったのか、そういうことだったのか、と安心したら、少し眠れました。
猫の同衾
再び目が覚め、午前3時。
起きるには早いです。
6時まで長いな…とうつぶせになったら猫が来ました。
私の口元に鼻をずいっと寄せてきます。口を開けます。
まあ、眠れないのは不便だけど、猫がいるならいいか。そのうちまた少し眠れるだろう。
そう思って寝返りを打ったときでした。
布団と背中の隙間にしゅぼっと猫が滑り込んできたのです。
一瞬、何が起きたのかわかりませんでした。
そんな、まさか。
だって、私たちはこの日が初対面です。
それなのに、同衾だなんて。
咄嗟に走る緊張感。
困惑しつつも、なぜか微動だにしてはならぬとわかりました。
寝返りはおろか、布団をめくって見ようとしてはならない、
ただ、背中でうごうご遊ばれるまま耐えるのだと。
こんな3時間ならむしろ歓迎です。
猫がもぞもぞ触れるたび謎の笑いが込み上げ、打ち震える己を律し、寝具の一部と化そうと決意したのも束の間、しゅばっと猫は飛び出していきました。
風のようでした。
それから猫は室内を大胆に駆け回っていましたが、もう布団に入ってくることはなく、私は安堵と一抹の心残りとともに目を閉じました。
猫の毛繕い
明け方、うっすらと意識が浮上する中、顔に妙な冷たさを感じました。
顔全体ではなく一部、ちょうど右眉のあたりです。
濡れているような、触られているような。
なんだろうとふしぎに思い、薄く目を開けました。
猫でした。
寝ている私の顔を猫が舐めていました。
それもなぜか眉毛だけ。もしかして、
眉毛を毛繕いされている…?
えっ…
なんで?
なんで…??
疑問に思ううちに意識は沈み、次に目が覚めると朝6時でした。
こうして無事にスリリングな一夜を過ごし、私はめでたく自分が猫であると悟ったのでした。
猫の目覚め
自分が実は猫であると知って戸惑いもあったものの、同時に希望も見えました。
今世は間違えて人型に生まれただけで、来世ではきちんと猫に生まれてくればいいだけのこと。
そのために今世では、猫の生き方を学ぼうとひらめきました。
猫と暮らして間近で学ぶのが一番ですが、残念ながら今の私は生活保護。
猫と暮らせるような賃貸に引っ越せる身分ではありません。
でも、今できることをすればいいのです。
全ての道は猫につながっています。
不安に思っても大丈夫。
猫による猫のための『猫語の教科書』にも書いてあります。
猫の可能性に限界などありません。
引用:猫語の教科書|ポール・ギャリコ
私たちは少々容れ物が違うだけで、すでに猫なのです。